「植物からみた生きものたちのインターフェイス」。植物の視点から我々の身体を包み込む生態系の連鎖を音によって体感させるインスタレーション、『エコロジカル・プラントロン』(1994年)を再検証復刻。
植物学者の銅金裕司が、植物と話し、植物から話しかけてくるような装置を目指し、1987年から研究開発した画期的なシステムそれが「プラントロン」だ。マックPCがまだ「オカルト的な感じ」(銅金談)を漂わせ、一台の値段で軽トラが2台買えた時代、マックSEと脳波測定機材を使って独力で実験を続けシステムを考案。植物から電位変化を取り出して人間の知覚できる音や映像にかえるこの装置は、ソフト面でもハード面でもかつて遭遇したことのない世界を提出する。
「プラントロン」は90年代初期に研究の場から公の場に登場するや、マスコミで取りあげられ一種の<現象>となり、NHKの番組で特集され、2007年にはNTTインターコミュケーションで大規模展示を行っているが、この装置の原点的意味がどこまで浸透したかは不明だ。銅金のとなえる「植物中心主義」の態度は相当に挑戦的で過激であり理解者は少なかった。しかし、「プラントロン」最初のインスタレーションから30年経った2022年、脱炭素社会の構築を世界的な合意目標にあげた今、その先見性と実行に畏敬の念を表するよりほかはない。
『エコロジカル・プラントロン』(1994年)はこの「プラントロン」の最初のCD記録集である。銅金の「プラントロン」を作曲家の藤枝守のサポートで本格のインスタレーションに構築したもので、植物と人間環境の往信から生まれた電位変化がMIDI変換され、「MAX」プログラムを通して不定形かつ不規則なYAMAHAのFMシンセ音となって放出される。強引に例えれば、クセナキスやペンデレツキの図形楽譜曲にどこか似た雰囲気、あるいは予測不能な電子音を垂れ流すコンロン・ナンカロウといえるかもしれない。
生態電気といえばヒトの脳波を使ったデヴィッド・ローゼンブームやアルヴィン・ルシエ、ヤン富田らの実験音楽が思い出されるが、本作は人間が主役ではなく徹底して植物中心主義で、そもそも近代的な意味の<音楽作品>として提示されていない。
今回の復刻ではギャラリーで制作された自主盤音源をリマスターし、CD版には『エコロジカル・プラントロン』以降の二つの展示「マングローブ・プラントロン」(1995年)と「ピアノラ・プラントロン」(1997年)での未発表録音をボーナス・ディスクとして収録。初のLP版も発売となる。なお、本装置の1992年のインスタレーション公開以降、疑似類似の試みが出現しているが、そのオリジナルが「プラントロン」である。